かけはし重要記事

frame01b.html

もどる

『週刊金曜日』のインタビュー           かけはし2002.11.25号より

「曽我ひとみさんの家族に単独会見」をどのように考えるか


 十一月十四日に、「週刊金曜日」は拉致被害者曽我ひとみさんに、発売前の同誌11月15日号に掲載されたインタビュー記事「曽我ひとみさんの家族に単独会見」を手渡した。これを読んだ曽我ひとみさんは号泣し、その日の会見を断わった。この取材が大きな問題になっている。

拉致加害者のもとに帰せという姿勢

 「週刊金曜日」は次のようなインタビューを掲載した。
 曽我さんの二人の娘は「早くお母さんに会いたい」「お母さんがいないので、ご飯がのどに通りません。お父さんもよく眠れないみたいです。一日も早くお母さんを家に帰してください」と語っている。
 さらに、夫のジェンキンスさんは「どのようにして朝鮮に来たのかということは、妻がここを発つ二週間前に知りました。袋にいれられて連れてこられたということを言っていました。このことは信じられなかったし、今も信じ難いです。……金日成主席が導くこの国でそんなことはあり得ないと思いました」「デモを起こしてでも妻を帰すよう日本政府に訴えてください」と語っている。
 「週刊金曜日」は同じ号で、「忘れられた子どもの人権、『永住帰国』で見えてこない残された家族の気持ち」(粟野仁雄)という記事も載せている。その報道姿勢は、拉致被害者を拉致加害者のもとに送り返せというものにほかならない。

犯罪被害者に打撃を与える報道

 「週刊金曜日」は、旧日本軍の性奴隷にされ、現在も北朝鮮で生きながらえながら日本のこの歴史的組織的犯罪行為を告発し続けているハルモニたちの生の声を伝え続けている数少ない貴重なメディアである。「週刊金曜日」が拉致問題について、さまざまな意見を報道するのは当然だが、「週刊金曜日」自身が北朝鮮政府の許可を受けて、拉致被害者の北朝鮮に残された家族インタビューという行動に移したことで重大な責任を負うことになった。
 今回の報道に対して「曽我さんが動揺したのは、(残された家族のことを)伝えたことが悪かったのではなく、そういう状況を作ったのが問題」と「週刊金曜日」の黒田編集主幹は述べている。しかし、「伝えることの重要性」を掲げて、被害者に打撃を与える報道姿勢は正しいのだろうか。
 近年、犯罪被害者に対してさらなる打撃を与えるようなマスコミ報道が問題となった(東電OL殺人事件で被害者のプライバシーをあばきたてた例や松本サリン事件の被害者河野義行さんをサリン事件の犯人扱いにした例などあげたらきりがない)。犯罪にまきこまれた被害者の人権を配慮した報道姿勢がマスコミに厳しく問われている。
 曽我ひとみさんは「週刊金曜日」の記事に「私は怒っている」と伝えてほしいと報道された。被害者家族会は緊急の記者会見を開き、「北朝鮮の意向を代弁するもの」と強く抗議した。そして、拉致被害者蓮池薫さんの意見として「北朝鮮では自由に発言できるものではない」との報道もされた。

「自由なインタビュー」だったのか

 「週刊金曜日」が行ったインタビューは「自由」なインタビューなのであろうか。北朝鮮政府は、国内で「日朝会談で、金正日が拉致を認め、謝罪したこと」を一切報道していない。北朝鮮の内情を中朝国境で長年取材をしてきた石丸次郎さんは、次のように伝えている。
 「あなたは恐怖政治の実態を知らないからそんなことが言えるんですよ。ひと言の失言が家族全員の一生を台なしにする。そんな例が周囲にたくさんあります。ある日突然、いなくなってしまうんです」「よちよち歩きを始めるころから、託児所で金日成と金正日の革命歴史だけを教える。ラジオもテレビも雑誌も金親子賛美一色だ。世界はどう動いていてなにが起こっているのかなんて、口コミ以外に知る由もない。公式見解以外のことを知ろうとしただけで政治問題化するんだから、誰もなにも知らない」『北のサラムたち』(石丸次郎著、インフォバーン刊)。

金正日は被害者の要求を受け入れよ

 こうした金正日唯一思想体制の下に残された子どもたちが信じこまされてきた金正日体制が実は、自分の親を拉致してくるような犯罪を犯していたことを他人から知らされた時、子どもたちの価値観は混乱し、崩壊するのではなかろうか。
 曽我ひとみさんは「いっしょに拉致された母親が日本に生存していると思っていた。帰国前に、母親の消息の調査を北朝鮮当局と約束した」と言う(11月15日)。しかし、北朝鮮はその母親の拉致の事実さえ認めていない。
 北朝鮮政府は「日本側が問題メンバー(五人の拉致被害者)の帰還に関する合意を完全に順守しない限り、安保関連会議が無期限に延期されることを含め、重大な結果が生じることを知るべきだ」(毎日新聞、11月15日)として政治的駆け引きに利用している。北朝鮮政府は拉致被害者の要求を全面的に受け入れるべきだ。

「北朝鮮の意向を代弁するもの」だ

 今回「週刊金曜日」が仲介したような、北朝鮮が家族の心情に訴えて帰国を促したり事態の沈静化を図る事例は他にもある。
 よど号グループによる拉致事件への関与を証言している八尾恵さんは北朝鮮に二人の子どもを残しており(父親にあたる男性も日本に帰国している)、帰国を求める裁判提訴まで行った。これに対して、よど号グループの配偶者らの帰国ラッシュとは対照的に、北朝鮮にいる二人の子どもからという形で、八尾さんの帰国要求あるいは八尾さんへの非難のメッセージが発信され続けた。八尾さんは子どもたちの将来を考慮して、提訴を取り下げざるを得なくなった。
 拉致被害者家族が、「週刊金曜日」のインタビューは「北朝鮮の意向を代弁するもの」と批判するのは当然である。「週刊金曜日」は被害者の人権擁護の立場に立った報道をすべきだ。(滝山五郎)


もどる

Back